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気宇壮大な意識外イメージの構築
孤高の唯美主義者である有坂ゆかりは、メルロ=ポンティが「存在の組成」と呼んだ、画家によって絵画に変えられる“世界”を描いている。

物静かな有坂の心の中には、絵画制作への強い信念を宿しているのではないかといつも思う。有坂は、多摩美術大学大学院に提出した博士論文で、「意識外で感知し意識される前に捨て去られる情報の中に存在する無限の形象」を捉えることが、「抽象化による絵画なればこそ果たしうる使命」であると述べている。

シュルレアリスムが捉えたのは意識下(sub-conscious)のイメージであり、無意識(un-conscious )界のほんの一部でしかない。一方、不確定かつ無尽蔵に拡がる現象界の中で、意識外のイメージを認識し、不定形の線や点、色彩の集積などによって絵画化することが、有坂の目指す所であろう。

2000年代の有坂の作品は、色彩がもたらす心理的影響を排除するために画面をモノクローム化し、形象やマチエールを抑制していた。鑑賞者はそれらの作品を見つめると同時に、鑑賞者個人の内面世界へと繋げて、記憶や感覚を重ねて意味を見出すことを試みた。

2010年以降になると、有坂は赤、橙、緑、紫などの色彩を使用し、豊饒で崇高なイメージを彷彿とさせる、感覚的で色彩豊かな画面を展開しているように見える。有坂が意図しているのは、抽象化による「意識外のイメージ」であるが、その中には鳩や兎などの小動物の姿が見え隠れしているようにも見える。私は、ギリシャ神話でカオス(混沌)からガイア、タルタロス、エロスが誕生する場面や、旧約聖書『創世記』で暗闇の中、神が光を作り、大地と海、そして植物、魚、鳥を作っていく場面など原初的形体を連想する。

今回出品される新作の《石化》《霞の花》などには、白鳥、人物、花など具象性を帯びたモティーフが登場する。具象性を孕むと観者との交感は進むが、意味が限定されるきらいの中での新たな展開である。これらのイメージは、有坂の脳裏に浮かぶ形象や心象を描いたものであるとしても、有坂の気宇壮大な世界の構築を感じさせるものであり、有坂の秘めた可能性を確実に示しているものである。
五十嵐 卓(損保ジャパン日本興亜美術館 学芸課長)
カバー装画
「ルウ、ルウ」 杉本徹 著 (思潮社)
有坂 ゆかり
多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程修了
博士号(芸術)取得
2014
個展「沈黙の扉」/DOKA Contemporary Arts(東京)
「spirit of Asia artist (soAa)」/Gaon Gallery(Incheon Educational and Cultural Center for Students)、Incheon National University/(仁川・韓国)
2013
「伯爵綽々」/中之条ビエンナーレ/(群馬)、GALLERY 2(兵庫)
2012
西宮船坂ビエンナーレ/(兵庫)2010
「THEREat - Yoon Kyung Mee, Yukari Arisaka」/JANG CHEON GALLERY(ソウル・韓国)
個展「Metamorphosis」/Eve Gallery(ソウル・韓国)
2011
「アクエリアス」/ギャラリー渓(東京)2010、2009
「デパートに、里山アートがやってきた!」/阪急阪神百貨店西宮阪急(兵庫)
2010
個展「数について」/SPIN GALLERY(東京)
2009
「日中藝術家 2009年展 − 出会いの触覚」/後援 中国駐日本国大使館 他/八王子学園都市センター第1ギャラリーホール(東京)
2008
個展「Emergence」/南海摩登博覧会/後援 在日フランス大使館(日仏交流150周年記念事業)/旧西本組本社ビル(和歌山)
「Bicultural Vision − 有坂ゆかり・朴香淑 展」/Gallery Velvet(ソウル・韓国)、小岩プロジェクトスペース(東京)
個展「旅行記‐書物による旅の記憶‐」/森岡書店(東京)、恵文社一乗寺店(京都)2007
2006
個展「Paradise Lost」/アート企画 Agora Musica 2/武蔵野美術大学美術資料図書館民俗資料室ギャラリー(東京)
第25回損保ジャパン美術財団選抜奨励展[推薦作家]/ 損保ジャパン東郷青児美術館(東京)
有坂ゆかり展
「沈黙の扉」
有坂 ゆかり
2014年11月7日(金)〜11月15日(土)
1:00pm - 7:00pm (日曜休廊)
DOKA Contemporary Arts
〒107-0062 東京都港区南青山7-1-12
TEL : 03-3407-3477
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