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行為の痕跡から立ち上がる絵画
画面を覗き込めば、疾駆する速度感をみなぎらせてひしめく痕跡群に圧倒されてやまないのに、身を退いて見渡した形象の総体は、一切のダイナミズムをのみ込んで密やかに見る者を包み込む。中村陽子を世に知らしめたのは、そのように万象の一瞬々々のめくるめく変化と、それらを永遠に凍結させたかのごとき静寂とが、いわば二重化されたような絵画群である。唐突だがこの印象は、転変する音の流れをすべて切断し、訪れた沈黙をも楽曲の血肉としたロマン派交響楽の「全休止」を連想させる。なるほどすべての音を生成の糧とした交響楽の「全休止」と、積み重ねた表現の終着点である絵画の静寂とは、本質的には同一視され得ないものかもしれない。しかし、各部の生き生きとした動きや速度感を、有機的な連関のうちに昇華させた中村の画面は、筆者には次なる生成の気配を充溢させた豪奢な静寂としての「全休止」とだぶってみえるのだ。

ところで、中村絵画の符牒ともいえるダイナミックな動きと速度感は、絵筆によらず手指や掌によって描いた行為の所産である。フィンガー・ペインティングとも呼ばれるそれは、絵筆の制約を解き放ち、身振りや行為と結びついた直接的表現を旨とする現代の絵画動向からもたらされたと言ってよい。と同時に、太古の人類が同じ画法で洞窟壁画を遺していた事実を思い返せば、フィンガー・ペインティングと起源回帰願望のかかわりも無視できないだろう。不覚にも中村がなぜ手指や掌を筆代わりに用いたのかは聞き漏らしたが、絵筆では満たされない何かを自覚した上での選択だったのは間違いあるまい。にもかかわらず、そのような身振りや行為と直結した始原のダイナミズムだけが、画家の至ろうとした終着点でなかったのは、今回の個展出品作をみても歴然としている。 というのも、見る者は手指や掌を使って直描きした作品群にとどまらず、そこから派生し展開された二系列の作品群も目にすることになるからだ。その一つは、直描きの画面にかぶせた紙をバレンでこすり延ばして、直描き面の画像をそっくり転写した作品群。他の一つは、直描き面を石膏で分厚く被覆し、それを部分的に掘り返して埋もれた下層画面を断片状に浮かび上がらせた作品群である。このうち前者では消去された物質感に代わって前面化した形態に、対する後者では断片図像状に白い石膏地の下層から露呈した色彩に、それぞれの照準が合わされているのがわかる。手指や掌による表現から出発した中村の絵画は、いまやこのように、形態と色彩という絵画を成立させる基本的なエレメントの探究へと歩を突き進めているのである。画面という画面にスリリングな表現の息吹を注ぎ込んでは、望むべき像がそこに定着されるのを辛抱強く待ちながら。
三田 晴夫 (美術ジャーナリスト)
パブリックコレクション
百民美術館(韓国)
世田谷山観音寺・本堂(東京)
京都東急ホテル・レストラン星が岡(京都)
エクシブ山中湖・レセプションロビー(山梨)
パレスグランデール山形・インフォメーションホール(山形)
エクシブ箱根離宮・レストラン杜季(神奈川)
カバー装画
「ビジネス・ゼミナール会社の読み方入門」松田修一著(日本経済新聞社)
「信ずるとは何か」橋本凝胤著(芸術新聞社)
中村 陽子
【個展】
1994〜2017
スウェーデンハウスギャラリー・ギャラリーセンターポイント (東京)・かねこあーとギャラリー・空想ガレリア(東京)・A.J.M・Gallery(N.Y.)・ギャラリーユニグラバス銀座館(東京)・間瀬邸(軽井沢)・ぎゃらりー由芽(東京)・ギャラリー山口(東京)・もみの木画廊(東京)・Shonandai My Gallery(東京)・Gallery AMANO(山梨)・DOKA Contemporary Arts (東京)・日仏会館エントランスホール(東京)・MIKISSIMES GINZAギャラリー(東京)・Steps Gallery(東京)
【グループ展】
1990〜1997
神奈川国際版画アンデパンダン展(神奈川県民ホールギャラリー)
1991〜1996
女流画家協会展(東京都美術館)
1999〜2000
国際現代美術展[波動1999-2000]光州市立美術館・/神奈川県民ホール
1999〜2011
版画みやぎ(仙台メディアテーク)
2000
ミューズ春の祭典・芸術の胎動(ミューズ・ザ・スクエアー)埼玉
Group show (A.J.Mギャラリー)ニューヨーク
2001
棘皮者(岩崎ミュージアム)横浜
Today’s Art Formation 2001(釜山−東京)
日韓女流芸術展(インゼイ美術館)韓国
2002
リネアート(Flanders Expo)ベルギー
日韓美術交流展2002(韓国文化院ギャラリー)東京
ミューズインフォーマットの表紙を飾ったアーティスト展(ミューズ・ザスクエアー)埼玉
日韓現代女流作家展(目黒美術館)東京
2005
今日の反戦展(丸木美術館)埼玉
第21回南部国際美術際(光州Biennale展示館)韓国
掘削の為のエスキース、或いは井戸、若しくは釣り人(仙台メディアテーク)
16の錬金術#003(日専連BEEBギャラリー)仙台
2006
釜山国際環境芸術祭「BEAF-2006」(釜山文化会館)韓国
MIARTアートフェスティバル(ミラノ)イタリア
2007
日本・アイルランド国交50周年特別展覧会(駐日アイルランド大使公邸)東京
2011
第6回ACKid2011(美術・映像・音楽・身体パフォーマンス)
同時開催・EXHIBITION(キッド・アイラック・アート・ホール)東京
2015
オディシービエンナーレ2015(NIFT)ブハネシュワール・インド
2016
第13回国際ミニチュアートビエンナー レ2016/セルビア
2017
「表層の冒険」ーアポカリプス展(ギャラリー鴻)東京
中村陽子個展
−あらわれるものたち−
中村 陽子
2013年11月8日(金)〜11月16日(土)
1:00pm - 7:00pm (日曜休廊)
DOKA Contemporary Arts
〒107-0062 東京都港区南青山7-1-12
TEL : 03-3407-3477


中村 陽子
2013年11月11日(月)〜11月22日(金)
10:00am - 6:00pm (日曜休廊)
〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿3-9-25
TEL : 03-5424-1141
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